元素添加DLC膜のパターン作製とそのフジツボ付着抑制効果の検討
1.フジツボ
フジツボが船体や発電所冷却系の管などに付着することによる経済的被害や環境問題が問題となっています。以前はトリブチルスズ(TBT)を代表とする有機スズ系化合物塗料が使用されていましたが、有機スズ化合物の持つ毒性が環境に悪影響を及ぼすとして使用が禁止されています。そのため、現在はTBT塗料に代わる様々な付着防止対策の研究が行われています。
フジツボは複数のたんぱく質を分泌することにより付着行動を行うことが報告されており、たんぱく質の吸着には濡れ性の変化が影響することが報告されています。しかし、たんぱく質の種類によって最適な濡れ性は異なります。
図1.船体に付着したフジツボ[1]
2.DLC
DLC膜は、ダイヤモンド構造(sp3結合)とグラファイト構造(sp2結合)を有する炭素が不規則に混在するアモルファス炭素です。DLC膜は水素含有量やsp3/sp2比などの違いによって物性が変化します。そのためDLC膜は自動車部品や切削工具、ペットボトル等、幅広い分野で活躍しています。
また、DLC膜は海洋中での適用も検討されており、フジツボの付着防止を目的としてDLC膜を利用した研究も存在します。[2]
図2.DLCコーティングを施したペットボトル[3]
・DLC膜の特徴
・高硬度
・耐食性
・耐摩耗性
・低摩擦係数
・ガスバリア性 etc.
このように、DLC膜は様々な特性を持ち、フジツボ付着低減に対しても効果を見込める表面加工方法であると考えます。
・DLC膜のコーティング方法
DLC 膜のコーティング方法はプラズマCVD法、イオンビーム法、アーク法、パルスレーザー法などが挙げられます。以下にプラズマCVD法の原理を説明します。
・プラズマCVD法
本原理は炭化水素ガスを導入し、高周波放電などによってプラズマ化し、電極の上に置かれた基板上に炭素や水素を蒸着させる方法です。
チャンバー内は中真空とし、ガスは主にメタン CH4 が用いられます。成膜温度が 200℃ と低温で行うことが出来ます。
図3.RF-CVD装置の概略図
3.元素添加とパターン形状薄膜
・元素添加
元素添加を行うことで様々な特性を改善することが可能となります。
その中の一つに濡れ性の変化が挙げられます。元素を添加させることで親水性の性質や疎水性の性質をDLC膜に付与することが可能となります。
・パターン形状薄膜
パターン形状薄膜とは、パターンマスクなどを用いて基板表面上に凹凸を作った薄膜です。
フジツボの付着行動には表面形状の凹凸も関わっているとされています。[4]
そこで、意図的にパターンを形成したサンプルを使用することでフジツボの付着行動に影響を与えるかを評価します。
4.本研究の目的
元素添加を行ったDLC膜のパターン作成と、濡れ性の違いによるフジツボの付着評価を目的とします。
5. スライド
[1]YUIME japan https://yuime.jp/post/fishing-boat-barnacles-countermeasures
[2]塚村慶子,武田正良,寺山朗,槇本佳泰(2011) 「海洋で利用する資材の生物付着耐性評価試験」, 『広島県立総合技術研究所 西部工業技術センター研究報告』54,P.61-64
[3]三菱ケミカルホールディングスグループ, PETボトル, https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/food-packaging/product/1200448_7250.html
[4]堀内麗子, 小林聖治, 亀山雄高, 水谷正義, 小茂島潤, 勝山一郎, タテジマフジツボキプリス幼生の基材選択性と付着に及ぼす微細凹凸表面形状の影響, 材料と環境, 58巻8号, P.302-307